死世界

第一章 幻
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 音は、色をなくしていた。



 ――静寂。



 私の呼吸だけが、目の前の世界を象(かたど)る。

 それだけが現実で、内なる何かがしきりに悲鳴をあげる感覚や、震える指先が触れるものとかその意味などは…よくわからない。

 やけに暗くて、息苦しい。



 現実なのか、幻覚なのか、この空間はとても不確実だ。どちらかを証明できるものもない。

 私はいつからここにいて、何をするためにいるんだろうか。

 何をしたんだろうか…。



 …これが現実であってほしいのか、幻覚であってほしいのか…。

 私は今…何を思う?

 私の意志…私の望み…。

 …思考までやけに暗くて、何も見えない。












 ――鼓動。






 今、私の意識をつなぎ止めている『彼』から、とても弱々しい音を感じた。

 意識だけじゃない。私の身体を放すまいと、しっかり抱きすくめている。

 私もまた、『彼』を抱き留めている。






 鼓動…鼓動が…。






 だが、この空間は変わらず静かだ。

 『彼』は何も言わない。私も、話しかける言葉が見当たらない。

 黙って抱き合ったまま、存在の不確かな時間は音もなく過ぎる。






 鼓動が……鼓動が……。






 …何故だ?

 私の呼吸と、『彼』の鼓動…。

 何故…この空間は、風に揺らぐ灯のように不確実さを増していくんだ…?

 確かに…私と『彼』は…今…。






 ……鼓動が………鼓動が…………………………鼓動が……。






 …………嘘…。

 『彼』…が…。

 何故…何の為に、こんな…。

 ……私、が…?

 この結果を…もたらした…。

 何故………何故…何故…!?



 ――何故?



 …その先にあるものが、私の……望みか?

 私は…この結末を望んでいないのか?

 私が望む結末は、なんだ?



 …疑問を投げ掛けられる相手は…この『世界』に、一人だけ。

 まるで生気のない『世界』で、まるで生気を失ったかのように私にもたれ掛かる…『彼』。

 その『彼』が…少しずつ…。

 私にのしかかった重みが…少しずつ…。



 少しずつ…少しずつ…。












 …………鼓動が……………鼓動が……………………………………………………………鼓動が……………………………………………………………………………………………鼓動が………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………鼓動が……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………鼓








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